2016年2月12日金曜日

謎の「かりろく丸」

以前、「吉備大臣入唐絵巻(きびのおとどにっとうえまき)」を読んで
不思議に思ったことを、Twitterに上げたことがありました。




内容をかいつまんでご説明しますと、物語の主人公は
遣唐使の吉備真備さん。

唐の玄宗皇帝に重用された彼は、他の官僚たちの妬みを買い、
これでもかと無理難題を課せられることになりました。
クリア出来なければ、ご飯抜きで幽閉されてしまいます。

そこへ現れまするは、同じ憂き目にあって幽鬼と化してしまった
阿倍仲麻呂さん。 (*1)

陰陽師で有名な、阿倍晴明さんのご先祖だという説もある
仲麻呂さんは、お空だって、ひとっ飛び。 (*2)
スーパーパワーで、真備さんを強力にサポートしていきます。

絵巻の第五・第六段では、囲碁未経験者なのに、唐の名人と
勝負させられることになった真備さん。絶体絶命の大ピンチ!

しかし、若くして科挙に受かるだけあって、真備さんも只者ではありません…。

天井の格子を碁盤に見立てて、仲麻呂さんに一夜漬けで特訓してもらい、
いざ対局に臨みますれば、結果はなんとジゴの様子。

そこで満足しておけばいいものを、どうしても勝ちたかったのでしょうか、
真備さんは黒石を1つ盗って飲み込んでしまいます。
(当時は上手が黒を持ちました)

当然のことながらバレまして、証拠を出せとばかり、強力な下剤である
「かりろく丸」を飲まされてしまうのですが、なんとか頑張って堪え、
勝つことが出来ました!

…という、英雄譚にしては若干とほほな感じのお話です。

ここで疑問に思ってTwitterに書き込んだのが、
「飲み込んだのは、一体どの石だったの?」問題。

盤上の石を取ったら辻褄が合わなくなりますし、かといって
中国ルールではアゲハマは勝敗に関係ありませんし…
真備さんが必死にお腹に留めたのは、どこの石なの!?

(そもそも、特殊なセキが発生しない限り、中国ルールではジゴにならない
らしいのですが、下っ端には難しくてご説明できないので、割愛いたします;)

これは未だに謎のままなので、どなたかご教示頂けると嬉しいです!

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さて、すっかり前置きが長くなってしまいましたが、
ここからようやく本題に入ります。

前述の呟きからしばらく経ちまして、下っ端が
山本兼一さん著「ええもんひとつ~とびきり屋見立て帖」という、
時代ミステリーを読んでいた時のことです。

作中、新選組の隊士から誰にも見られてはならない手紙を預かった
主人公の奥さんは、手紙を入れた茶器に仕覆を着せ、誰かが開けたら
すぐに分かるよう、その緒を「かりろく」に結びます。



…おや、何やら見覚えのある名前が出てきましたね。
続けて、「かりろく結びとは、南国の果実を模したもの」との説明が。

かりろく…かりろく…。

入唐絵巻の詞書を読んだ時は、単なる薬の名前としての認識だったので、
絵巻と小説の「かりろく」が頭の中で繋がった瞬間、
実在するものなんだ!と、とてもびっくりしました。

しかも、南国果実とは。



ここで下っ端の頭に浮かんだのが、南国フルーツ盛り合わせ。
幕末でいう南国とは、ベトナムあたりのことでしょうか。
ライチにマンゴスチン、ランブータン♪

でも、下剤に使われるほど強力にお腹が緩くなるような
フルーツに心当たりはないけどなあ、と思いながら
「かりろく」を検索してみたところ…。

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【訶梨勒(かりろく)】
インド原産のミクンシ科。ミロバラン。
タンニンやケブリン酸を含み、収斂・駆風・咳止め・
声枯れ・眼病・止瀉薬として古くから知られる。

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…どう見てもフルーツではなかったことに少々落胆しつつ、
効能書きの最後を二度見。

「止瀉薬として古くから知られる」

ししゃやく…は、お腹のゴロゴロを宥めるためのお薬なような。
でも、かりろく丸は、真備さんが飲み込んでしまった碁石を
出させるためのお薬でしたよね。これでは逆効果なのでは…?

そこから更に調べてしらべて、いつも通り囲碁とは全く関係のない方向へ
どんどん脱線していくのですが、長くなりましたので、
続きはまたの機会にしたいと思います。


今回も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました♪

(author:下っ端)